【イベントレポート】2/5(水)🌟2025年ワイン会第二弾🌟「リッポン ヴィンヤード アンド ワイナリー」@套餐 一碗水 開催しました!

ワイン会・イベントレポート

ニュージーランドと中国、土地を伝える二人の重奏
~リッポン×套餐 一碗水のプレミアムディナー~

「関西の食、ワイン、お客様を繋ぎたい」。ワインの発信基地として、新たなスタートを切った『スープル』。その活動の軸の一つが、お付き合いの深いワインの造り手と、関西のレストランによるプレミアム食事会のプロデュースです。
第2回目は、2月5日に開催されたニュージーランドの「リッポン」×中国料理『套餐 一碗水(タオツァン イーワンスイ)』のコラボディナー。私たちがテーマとする“人と人のマリアージュ”が、ミラクルな化学変化を起こし、美味なるアンサンブルを奏でてくれました。

 

「二人は同じ匂いがする。出会いの場を作ったら、きっと親友になると思う」。

オーナーソムリエ・鷲谷紀子がどうしても引き合わせたかった二人とは──。

 

ニュージーランドのセントラル・オタゴで、ヴィオディナミ(バイオダイナミック)農法※によるブドウ栽培と、人工的な介入を最小限に抑えたワイン造りを実践する異才の造り手、ニック・ミルズ氏

中国の古典料理を真っすぐに表現し続け、套餐=定食スタイルで新たな展開を始めた孤高の料理人・南 茂樹氏

 

※ヴィオディナミ農法
農薬や化学肥料を使用せず、天体の動きや自然の力を活用して作物を栽培するオーガニック農法の一つ。

 

誰かが歩いてきた道をなぞるのではなく、本質を突き詰めながら自分の信じた道を行く──。そんな二人のワインと料理を合わせたら、きっと素敵な化学反応が起こるに違いない。“人と人のマリアージュ”を強みとする私たちの革新的なコラボディナー第2弾は、2月5日、『套餐 一碗水』を舞台に開催されました。

 

山の白ワイン×飘香(ピャオシャン)なパイ

 

ニックの哲学は、「ワインは土地の声を伝えるもの」

「リッポン」の農場は、ニュージーランド南島のワカナ湖のほとりと、反対側の丘の2か所。山脈の麓で、火山の動きのあるプレートの上にあるため、ニックは「リッポン」を“山のワイン”と評します。

 

灌漑(畑に水を引くこと)なし、つぎ木なしで古樹を守り、テロワールに忠実なブドウ栽培を行う農場は、フィロキセラ(害虫)の被害のない数少ない畑として知られています。「自然の中、ありのままに育てたブドウには、土地の声が宿っている」。その声をそのまま伝えるため、ニックは人の手を極力加えず、ワインを造っているのです。



「リッポン」のブドウ畑の特徴は、火山性土壌によるシスト(片岩)。ワインにミネラルを与え、重厚感と凝縮感をもたらすことで、長い熟成を可能にする。

 

乾杯のタイミングで、私たちはあえて2種の白ワインをサーブしました。

「リッポン」の農場には、今、7種類のブドウが栽培されています。それは、30種以上の品種の試験栽培を試み、長年かけて選抜したもの。ニック曰く「土地に選ばれたブドウであり、ブドウが心地よいと住み着いた結果です」。

 

「リッポン」の白ワイン品種の代表格は、リースリングとゲヴェルツトラミネール。飲み比べることで、セントラル・オタゴの山々、そこに吹く風などがより感じ取やすくなるのでは?と私たちは考えました。

上/「マチュア ヴァイン リースリング」2022年。下/「ゲヴェルツトラミネール」2021年。

 

 

さて、本日のコースの一品目が登場。
香豆汁酥」とは、金華ハム・ネギ・マッシュルーム、そして、秋に採れた天然の香茸で仕込んだ醤(ジャン)のパイ。「香茸の香(良い匂い)とリッポンがどんな相乗効果を起こすのか? 私自身も楽しみです」(南さん)。

 

キノコのふくよかな香りは山の土の匂いに繋がります。そこに金華ハムの塩気や深い旨みが加わって複合的に生まれた、官能的な風味。

 

より相性がいいのは、どちらの白ワイン?と尋ねると、「どっちも合うヨ。僕のワインと彼の料理は、どこか共通するものがあるネ」とニック。このファーストインスピレーションは、この後、どんどん確信へと変わっていきます。

 

日本の春の香りを、率直に表現した2品

 

2品目がサーブされると、素晴らしい香気が立ち上がりました。

「フレッシュな金木犀(キンモクセイ)で作ったシロップを、エンドウ豆や空豆などと合わせています」と南さん。一口食べたニックは「オイシイ!」を連発。「とてもデリケートな一品。口の中に残る料理の余韻とワインを合わせてほしい」。

 

ゲヴェルツトラミネールとは、フローラルなアロマが共鳴するような相性。リースリングのチャーミングな酸は、料理の香味と甘みを包み込むよう。

1+1が2になるような膨らみのあるマリアージュというより、ワインと料理が共鳴しています。お互いの個性を保ちながら、寄り添い合っています。

 

立春を過ぎた2月5日、「春を咬んでいただく一品です」と、南さんが仕立てた3品目は「立春咬春」。「春に新芽を食べることで身体の毒素を出します。春巻は、蛇に見立てて細く長く巻いています。中国で、蛇は魔除けの力を持つとされているんですよ」。

 

日本の山菜の代表格・フキノトウのほろ苦さと、春の香りが率直に表現された一品。「2種の白ワインにはそれぞれ優しい苦みがあるから、どちらにもよく合うネ」。

「トニック」という共通点

4品目は、中国風の皮付きベーコンと季節野菜の温かい和え物。「白でも赤でも合う」と考え、このタイミングで2017年の「ガメイ」をサーブしました。

 

オーナーソムリエの鷲谷紀子は、「リッポン」のガメイに出逢って、熟成したガメイのふくよかな味わいに開眼。できるだけヴィンテージの古いワインを供したいと、この日のために特別に用意した1本です。

「円熟味があって、コクが深い。いい状態だネ!」とニックはこの表情に。穏やかなタンニンに、豊かな果実味。柔らかなスパイス香が、南さんが皮付きベーコンに潜ませた醤油味や香辛料の風味にしっくり寄り添います。

続いて供されたのは、上海ガニのスープ。「リッポン」のガメイと上海ガニはテッパンの相性なのですが…、南さんの料理は私たちの想像をはるかに超えていました。

「一番よく動かすので味がいいと言われる腕とツメの身を肉団子に練り込んでいます。白菜の柔らかい芯の部分と、乾燥キヌガサ茸を戻して、1時間ほど蒸したスープです」。

その滋味豊かなこと。混然一体となった旨みが、身体の中に染み込んでいくようです。

ニックが思わず発した一言は、「トニック!」。

 

純度の高い水のように透明感があって、ひっかかりがなく、身体に吸収されていく──。そんなフィーリングを、ニックはこう表現します。そして、自身のワインもまた「トニック」であると語ります。

 

「リッポン」の代名詞・ピノ・ノワール2様

 

セントラル・オタゴは、栽培が難しいとされるピノ・ノワールの世界三大産地の一つ。その中で、「リッポン」のピノ・ノワールは“ニュージーランド最高峰”と称されています。

 

6品目に合わせて、私たちは2種のピノ・ノワールをサーブ。ここからコラボディナーはさらに盛り上がりを見せます。

上/「マチュア ヴァイン ピノ ノワール」2021年。下/祖母の名を冠した「“エマズ ブロック” マチュア ヴァイン ピノ ノワール」2018年。

 

ニック曰く、「2021年のピノは、複数の音が重なり合うオーケストラのように多層的。エマズ ブロックは、一つの要素を貫くソリスト的な味わいです。キャラクターの違う2種のピノで、『リッポン』が育まれる土地の豊かさを感じてほしい」。

 

「炒假鱔糊」の「假鱔」とは、田鰻もどき。南さんは「能登てまり」というプレミアムな椎茸を田鰻に見立てました。島根県の伝助穴子と合わせ、醤油味の炒め煮にしています。

 

「スバラシイ!」とニックはご満悦。2つの赤ワインをそれぞれ口に含み、こんな風に評しました。「2021年のピノは若いですが表情豊かで、多層的な料理の味わいと調和している。エマズ ブロックは成熟していると思ってたけど、もう少し熟成させたいですネ」。

 

「ティンカーズ フィールド」垂直飲み

 

南さんのこの日のコースは、穏やかなイントロから始まり、少しずつ重厚さを帯びていくようでした。前菜的4品は、素材感が際立つ独奏のイメージ。その後に続く料理は、一品ずつ複雑味を増し、交響曲のような多層性を感じさせます。

 

7品目は、南さんが「この料理が一番ワインと合うと思います」と言う、鳩のクリスピー揚げ。スパイスのタレを絡めて火入れした後、飴がけにして一晩乾燥させたものを揚げています。鮮やかな緑は、ケールの素揚げ。

 

私たちが鳩に合わせてサーブしたのは、「ティンカーズ フィールド」。濃縮感がある、男性的で力強い味わいの赤ワインです。

「“ティンカーズ フィールド”マチュア ヴァイン ピノ ノワール」2018年。“ティンカーズ”は、ニックの父であり、「リッポン」の創始者であるロルフ・ミルズのあだ名Tinkにちなんでいる。

 

「ワォ! 野生の動物はリッポンの赤と一番よく合うんだヨ!」。ニックが目を輝かせながら鳩肉にかぶりつきます。「野趣があるのにエレガントで、ティンカーズとよく合ってるネ」。

 

8品目のタイミングで、ニックからのスペシャルプレゼントが登場。なんと「ティンカーズ フィールド」2015年のマグナムボトルを、はるばるニュージーランドから持参してくれたのです! 思いがけず、お客様に2018年との飲み比べも楽しんでいただけました。

 

このスペシャルなワインと呼応するような相性を見せたのは、発酵白菜と干し鶏の煮込み。

「白菜は塩を使わず2週間発酵させました。干し鶏は、熊野地鶏を塩水に浸けてから、うちのベランダで1週間風干ししたものです。こうした中国の伝統的な手法を、僕は伝えていきたいと思っています」。

 

南さんのコメントを聞いて、「僕と彼はモノづくりのアプローチが一致している。ルーツのある土地を、敬意をもって表現しているところに、深い共感を覚えるヨ」と、ニックは満面の笑みに。

 

共鳴する二人の美味しい相乗効果

「北海道の羊肉で作った腸詰で新疆(シンキョウ)ウイグル自治区の抓飯(ピラウ)を作りました。手でつまむと書いたこの一品は、ピラフの語源になっています。今日はワインと合わせるので、レーズンを加えました」(南さん)。

「プーアール茶のプリン」で幕を閉じた、今回のコラボディナー。ニックのワインと南さんの料理は、私たちが想像した以上にシンクロし、素晴らしいアンサンブル(重奏)を奏でてくれました。

お二人の最後の挨拶が、この日の盛会ぶりを物語っています。

 

『リッポン』のワインを通して、セントラル・オタゴの声を聞いていただけたでしょうか。ワインは農業の延長線上にあります。美味しいワインに出逢ったら、産地に想いを馳せてほしい。

そうした僕らの考えに共感し、ずっと支えてくれたラック・コーポレーションと、99年のオープン以来、僕のワインを扱い続けてくれているワッシーズに改めて感謝します」(ニック)。

 

「僕はこうしたワイン会は初めてなのですが、旧知の仲の鷲谷さんが普段通りでいいよと言ってくれたので、気負わず楽しめました。

ワインは発酵の産物です。中国料理にも豊かな発酵の文化があります。今日は、そうした古典的な手法による料理をお出ししました。まだまだ知られざるワインがあるように、中国には日本で紹介されていない料理がたくさんあります。それを僕は伝え続けていきたいと思っています」(南さん)。

 

そして、最後にニックが一言。

「今日は大成功でしたネ! 僕のワインと彼の料理は共鳴していました。僕らは似た者同士。今日からは友達デス!」。

造り手×料理人。“人と人のマリアージュ”を通して、ワインをもっと豊かに、もっと楽しく──。この日のコラボディナーは、『スープル』の行く道を明るく照らしてくれているようでした。

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