【スープル報!】
13277㎞の離れ業マリアージュ
~アンリ・ブルジョワ×浪速割烹 㐂川のプレミアムディナー~
2024年11月29日(金)、19時。
新生『スープル』の厨房では、大阪を代表する名店『浪速割烹 㐂川』の上野 修さんが采配を振るっていました。『志摩観光ホテル』で名シェフ・高橋忠之氏の下でフレンチを学んだ上野さんによる“割烹のフルコース”に、客席の期待は高まるばかりです。
その客席には、スペシャルなゲストの姿が。フランス・ロワール地方のサンセールから、Henri Bourgeois(アンリ・ブルジョワ)の当主、ジャン・マリー・ブルジョワ氏が来日! 彼のヴィニュロン生活70周年の記念した晩餐は、茶目っ気あふれる挨拶で始まりました。
「実はお祝いイベントは、フランスでもまだやっていません(笑)。日本が初めてです!」。
会場では大きな拍手が起こり、ジャン・マリ氏はこの笑顔に。
日本が大好きで、今回の来日はなんど73回目のジャン・マリ氏。
上野さんとジャン・マリ氏がグラスを合わせて、乾杯! 新生『スープル』の船出を彩る、プロフェッショナルな二人の一夜限りのコラボディナーの幕開けです。
「レ バロンヌ ブラン2022」×ホウレン草のすり流し
SANCERRE BLANC ≪Le Baronnes≫2022(サンセール ブラン レ バロンヌ)
「白い花の香りに柑橘系のニュアンス。私たちのスタイルを表現する白ワインです」。
1本目の「レ バロンヌ ブラン2022」を味わいながら拝聴したのは、ジャン・マリ氏による「粘土石灰質の土壌で育つソーヴィニヨンブランについて」のプチ講座。
そこへ、一品目が登場。鮮やかな緑が目を引く、ホウレン草のすり流し。タラの白子を使った雲子豆腐にクコの実を添え、柚子の香りで。ホウレン草の風味を品のいいだしが引き立てる優美な味わいに、「ソーヴィニヨンブランの青さと重なり合っています」と、ジャン・マリ氏もご満悦。
<先付>菠薐(ほうれん)草の摺(す)り流し
二品目は、帆立貝やマコモダケ、野生のクレソンを『㐂川』特製「辛子黄身寧酢」で。「黄身寧酢」はマヨネーズのこと。そこに辛子を利かせています。
キリっとした酸味は、上野さんがこの白ワインに合うよう工夫したもの。クレソンの青々とした野性味が、「レ バロンヌ ブラン2022」と呼応します。
<和合物>帆立貝と野生クレソン
「ジャディス2002」×『㐂川』流「其々味割鮮」
「本日のスペシャルの一つです。私のプライベートセラーから持ってきました」。
キンメリジャン石灰土壌の斜面で育つ、樹齢50年のソーヴィニヨンブラン。その特別な土壌は、「小さな牡蛎の化石が多く含まれ、1億5千年前、海の底にあったことを教えてくれます」と、ジャン・マリ氏。
SANCERRE BLANC ≪LA BOURGEOISE≫1985(サンセール ブラン ラ ブルジョワーズ)
スペシャルなのはワインだけにあらず。『㐂川』流「其々味割鮮(そそみかっせん)」は、お造りをそれぞれのタレの味で楽しむスタイルで、二代目の修さんのスペシャリテです。
<割鮮>其々味割鮮㐂川流
マグロには、バルサミコ酢と醤油を合わせたゼリーを挟み、山ワサビを添えて。鯛は昆布〆にし、タクアンを忍ばせた「角也巻」にして、真昆布のピュレでいただきます。伝助穴子の焼き霜造りは、梅肉あんとワサビで。
車エビには、なんと中国産「木姜油(ムージャンユ)」でレモングラスの香りを纏わせ、イカはさっと炙ってオリーブ油とキャビアで、という趣向。タコはバジル酢味噌、カマスは山形の伝統調味料「あけがらし」を合わせ、イワシはディルの風味でマリネしています。
8種8様の魚介×タレの組合せに1本のワインを合わせるのは至難の業か…と思いきや、「ジャディス2002」恐るべし。それぞれの持ち味に寄り添って、チャーミングな共演を楽しませてくれます。
「この白ワインには、海の底の土のニュアンスがありますから、どんな魚介とも相性がよいのです」。ジャン・マリ氏の解説に、しごく納得。
<煮物椀>車海老真薯(しんじょ)の洋技澄まし汁
続いて供されたお椀も、『㐂川』のスペシャリテの一つ。“昆布とカツオ節を使わない”だしが決め手の、名付けて「洋技澄まし汁」。エビの殻と野菜、干し椎茸、ドライトマトでだしをとり、隠し味に味噌を使って旨みを深めた、いわばコンソメのお椀です。
黄ニラをアクセントにした車エビの真薯、銀杏(ギンナン)を使った葛豆腐を椀種にし、肉厚の椎茸、なにわの伝統野菜「大阪黒菜」を合わせ、ブラックペッパーを吸い口にした、まさに「洋技」な一椀でした。
「ダンタン2013」×ふなずしの飯(いい)の衝撃
実は、この日一番会場を沸かせたマリアージュは、こちら。
「ダンタン2013」と、白甘鯛の松笠焼。油をかけてウロコを立たせ、さらに炭で焼いた白甘鯛は抜群に香ばしく、青海苔が風味を添えていますが…。「ダンタン2013」とリンクしたのは、主役ではなく…。
SANCERRE BLANC ≪D’ANTAN≫2013(サンセール ブラン ダンタン)
<焼物>白甘鯛の松笠焼
黒いカップに盛り込まれた、ムカゴの鮒(フナ)ずし飯(いい)がらみ。鮒を漬けたご飯が発酵した飯こそ、マリアージュの主役。独特な乳酸発酵の香りが、「ダンタン2013」にも潜んでおり、口の中で重ねてビックリ。まるで「おしどり夫婦」のような円熟の相性なのです。
「ダンタンをうちの割烹でお出ししたことがあって。その時、鮒ずしのニュアンスを感じたので」と、上野さん。日本酒よりも、ワイン好き(シャンパン党)の上野さんの感性が光る一幕でした。
「ラ ブルジョワーズ ブラン1985」×アワビのソース仕立て
<揚物>富田林の海老芋。ソムリエール・鷲谷紀子のワインサーブで。
揚物は、大阪が誇る伝統野菜、富田林の海老芋を。淡口醤油で下煮してから薄衣をまとわせた白扇揚で、海老芋の素朴な持ち味を楽しませます。
スペシャルな晩餐のクライマックスを飾ったのは、ジャン・マリ氏がプライベートセラーに眠っていた1985年のマグナムボトル。ソムリエールの鷲谷さんが、「旨みとフレッシュ感がゆっくりと広がるように、少し温度を上げて、シャンパーニュ用のグラスでお出しします」と渾身のサーブ。
「亡き父と一緒に造った最後のビンテージです。父との思い出ごと、この70周年を祝う会にお持ちしたいと思って。石造りのカーブで眠っていたので、枯葉っぽい香りがありますが、40年経っても若々しさを保っていてチャーミングさも同居しています」。
ジャン・マリ氏が感慨深く語ります。
2種ある主菜のまず一皿目は、アワビが登場。香味野菜、ベーコンと共にバターでソテーし、白ワインで軽く煮た後、その煮汁にシェリービネガーとマスタード、とんぶりを加えてソースに。
<主菜Ⅰ>蚫(あわび)と白舞茸のとんぶりソース
「このワインにはシェリーのような凝縮感があります。シェリービネガーを使ったソースとの相性は…、言うまでもないですね(笑)」とジャン・マリ氏。
「ラ ブルジョワーズ ルージュ2016」×アワビのソース仕立て
二つ目の主菜は、猪肉の山ゴボウすり流し仕立て。ゴボウの野趣ある土の香りと、美しい和音を奏でたのは、この夜唯一の赤ワイン「ラ ブルジョワーズ ルージュ」2016年。
古樹のピノ・ノワールを使い、オーク樽で約1年熟成させた後、さらに瓶熟。凝縮感のあるゴージャスなキュヴェです。「16時30分に抜栓して、5時間かけて風味を開きました」とは、ソムリエールの鷲谷さん。
森の中の空気を思わせる深奧な香りが、猪肉や山ゴボウの野性味を受け止め、両者のエレガントさが美しい余韻へと導く。そんな洗練されたマリアージュです。
<主菜Ⅱ>猪肉と田辺大根と根付き芹。なにわの伝統野菜・田辺大根は滋味深く、セリは鮮烈な香味を放つ。はらりと振った粉山椒がまとめ役に。
SANCERRE ROUGE ≪LA BOURGEOISE≫2016(サンセール ルージュ ラ ブルジョワーズ)
21時を回り、まさに縁もたけなわ。ご飯ものは『㐂川』名物の焼き餅入りのお粥と、上野さんお得意の“割烹のカレー”。洒落たデザートにも歓声が上がり、会場は和やかなムードに包まれていました。
左上から<留椀>かちん粥、<ご飯>ひとくちカレー、左下から<デザート>能勢ジンジャーのフルーツポンチ、<茶菓>煎茶・のし梅。
そして、スペシャルな晩餐はラストシーンへ。コラボを終えたお二人による挨拶で幕を閉じました。
「私自身ワインが好きで、自宅が近所ということもあり、『スープル』がオープンした時は本当に嬉しかった。それ以来、何度も訪れたこの思い出深い場所で、コラボディナーができたことは、本当に幸せなことでした」(上野さん)。
「素晴らしいお料理ばかりで、私のワインも喜んでいると思います。これほど上質なマリアージュが実現したワケですから、『㐂川』さんには私のワインだけを置いてほしいと思います(笑)」(ジャン・マリ氏)。
法善寺横丁の『浪速割烹 㐂川』と、ジャン・マリ氏のワイナリー・Henri Bourgeois(アンリ・ブルジョワ)の距離は、なんと13277㎞。気の遠くなるような距離を超えた二人の共演は、『スープル』のプロデュースによって実現しました。
これからも新生『スープル』は、多くの“ワインが繋ぐ縁”を生み出し、深めていく場所として、ますます躍進していきます。
手前左から『スープル』マネージャー・西村道和、オーナーソムリエ・鷲谷紀子、その奥がジャン・マリ氏、『浪速割烹 㐂川』上野 修さんとスタッフたち。